ダイスの言うとおり

ダイスにはロマンがあるよな

39年前 - 1 -

「また、空を見ているのか?」

 青年は、浮遊大地――ロウヒルト―― の縁から少し離れたところに浮いている岩に座り込んでぼんやりと遠くを見ている男に声をかけた。
 距離にしておよそ7、8mくらいか。かつては遠く感じた距離も、いまやビロードのような光沢をたたえた翼を持つ青年にとっては、ひとつ息を吐くまでもない。

「うぉーす」

 男は青年の方を見もせずに、片手を挙げて答えた。 「ちゃんと今日の分の仕事は終えたんだ。そんなに目くじら立てなくてもいいだろう。ただでさえ眉が吊ってんだ。いかめしい顔になるぜ」

 男の笑みを含んだ声が、青年の神経を逆撫でする。

「やることをやったからいいというわけか? なら言わせてもらうが、若手では年長のあんたがそういう風だと、他の若手に示しがつかない。仕事の時間ではなくても、あんたの言動は若手が見てるんだ」

「そうは言われてもなぁ」

 困ったように頭をかいて、男は苦笑を青年に向けた。

「俺の人生は俺のものじゃないみたいな言い方じゃないか?」

「そうは言ってない。だがロウヒルトの一員である以上、そういうものだろう。
いや、ロウヒルトだから、ではないな。
共同体の一員として生きていく以上、多かれ少なかれそういう面はあるはずだ」

 生真面目な青年の答えに、男は苦笑を返すばかりだった。
 分かっているが納得はできない、そういう感情が見て取れる。
 青年は苛ついたようにさらに声を上げる。

「分かってるんだろう。あんたは手本にならなきゃいけない。
年上が年下の手本になるのはどこだって同じだ。
それがイヤとかいいとか、そういう問題じゃない。
そういうものなんだ。分かってるんだろう」

「俺じゃなきゃだめなのかい?」

「イェニテもリュクスもさっぱりロウヒルトに寄り付かないしな。
 それに、あんたより年下は、リュクスや俺も含めて年齢的にはみんな似たようなものだ」

 それに、あんたはなんとなく年下の連中に好かれる性質だから、と心中で付け加える。青年自身も男が傍にいるだけで安心感のようなものを感じている部分があった。自分にはない性質だと嫉妬交じりに認めている。

「そうかぁ。まぁそういうもんだよなぁ」

 男は足元の灰皿に煙草の吸殻をねじ込んだ。
 山のような吸殻は、三日前に数ヶ月ぶりで街から帰ってきたイェニテがお土産に持って帰ってきた紙巻煙草だった。

「―― そんなに吸ったら体に毒じゃないか?」

「ん? まぁ良くはないな」

 青年の心配そうな目線を受けて、男は取り出していた次の煙草をしまい込む。

「ま、お前さんの言うとおりかもしれないな。夢は夢だけにしておけってことか」

「俺にしてみれば、いつまでも夢を見てるんじゃない、と言いたいところだがな。そんなものは腹の足しにならない」

 男は青年に少し困ったような笑みを向けた。

「だからいつも飢えてるんだろうかなぁ」

「餓死寸前のような声を出すな。とにかく、あんたにはしっかりやってもらいたいんだ」

「わざわざすまないね。迷惑かけるなぁ」

「迷惑だとか、そんなことは決してない――」

 いろいろと欠点はあるが、やらせればなんでもできるし仕事も早い。何より年下の面倒見が良く、年寄りたちにも気が遣える。そういう男に対して抱いている憧れや、皆の期待を受けている男の力になりたいという思いをどう表現していいものか分からず、青年は言いよどんだ。

「―― 冷える前に戻った方がいい」

 結局どうでもいいことを言って背を向ける。
 小姑のような台詞に男が爆笑する。その笑いを背に受けながら青年は来た道を家へと戻っていった。


 男が長い旅に出るらしいと青年が聞いたのは、それから数日後だった。

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白銀

Author:白銀
TRPGと付き合ってはや十数年。
まさか結婚相手までTRPG者とは、TRPGで遊び始めた頃の白銀少年は知る由も無かった。

ルールブックの範疇で好き勝手に遊ぶので、ご一緒の際はよろしくどうぞ。

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