ダイスの言うとおり

ダイスにはロマンがあるよな

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朝のひと時 - マリク -

 マリクの朝はいつも苦痛と共に訪れる。

 日の出と共に地獄の業火が目蓋を貫き通して眼球を焼き(東向きの角部屋なのだ)、ベッドの上で断末魔の夜明けを迎える。
 もともと低血圧なのだが、それに加えて最近は連日誰かしらが朝から押しかけて来てマリクに苦痛を与えるのだ。  どうせ追い返しても問題の先延ばしにしかならないので、縫い付けられている目蓋をこじ開け、氷バケツに突っ込まれている指先と爪先を強引に引っこ抜き、焼け爛れた喉に灼熱の大気を苦悶の唸りと共に送り込み、楔でベッドに打ちつけられている体をよじって芋虫のように蠢く。
 恨みがましいマリクの苦悶の声は聞こえているはずだが、ドアをノックする音が止んだことはない。
 理不尽だ、とは思うが、脳の中心に鉛を流し込まれているので、それ以上考えることはできない。
 冷え切り、痛めつけられた体は言うことをきかず、たまらずベッドから転がり落ちる。鈍い痛みに、もはや吐き気すら感じつつ辛うじて身を起こし、なんでこんな苦労をせねばならないのかと心中で嘆く声を押し殺しつつ、ようやくドアに近付く。

ンな朝っぱらからどこのクソだ(おはようございます。ちょっと手間取ってました。どなたですか)…?」

『わたしわたし。ちょっと開けてくれる?』

 ここで開けると後悔する、と直感が告げるが、追い返したところでどうせ後で同じ話を持ってこられる、と理性が断じ、ひょっとしたら大事な話かもしれないじゃないか、と一抹の不安が脳裏をよぎる。
 何より血の巡っていない脳では適当な言い訳を考え付くこともできない。

3分で済ませろよ、ナイトウォーカーめ(今開けますから。開けますからそんなにガンガン叩かないで! まだ朝早いから!)

 指先までびっちりと針が詰まっているかのように感覚のない手でのろのろと鍵を開け(この間ノックされっぱなし)、ぜーはーいいながらなんとかかんとかドアを開けると、見慣れた年上のフェンラン女がするりと部屋に入り込んだ。

「あっきれた… まだパジャマだったの?」

「……」

 いろいろと反論(今から寝る人と一緒にしないでください、とか) が心に渦巻くが、どうせ言っても無駄なので言わないことにする。

「それでさ、頼みがあるんだけど、いいかな?」

「……」

 イヤだ、と言って聞いてもらえたためしはない。

「わたし、これから寝るんだけどさ。朝市では出てないものがあって。
 でも訊いたら午前中には市に出るっていうから。
 悪いんだけど、今から市に行って並んで、売りに出たら買っておいてくれない?」

「……」

 なぜ、寝るのを遅らせないのか、と訊き返したい気持ちで溢れんばかりになりつつ、マリクは頷く。どうせ最後には押し付けられるのだから、訊いても無駄だ。

「ありがと。じゃあこれ。買うもののリストね」

「……」

 死の直前のごとくかすむ目で、さして長くもないリストに目を落としたマリクの眉間に火花が散った。
 止まっていた心臓が動き出す。手足に血が流れ、温かみが戻ってくる。その血の流れは首を駆け上り、こめかみを濁流のごとく流れ、凍結していた脳みそを瞬時に解凍し、余波で顔面を鮮やかに紅潮させた。

「ちょっと待、これ、おま、おい!」

 リストに燦然と輝く「女性用下着」 の文字。しかも3人分。

「イェニテ姉、相部屋の奴がいるだろ! そっちに買わせろよ!」

「二人とも仕事で昨日からいないんだもん」

 イヤだ、と言って聞いてもらえたためしはない、という事実が重く辛く切なくのしかかる。

「……」

「お願いっ☆」

「……」

「お願いっ☆」

「…… イヤって言うだろ、普通……」

「お願いっ☆」

「…… 自分で行けよ!」

「もう寝ないと、お仕事に障るもの。お願いっ☆」

「…… 野郎が買ったとか知ったら、イェニテ姉の同居人の人とか、イヤがるだろ!」

「言わなきゃ分からないもの。それ、大特価なんだから。お願いっ☆」

「……」

 聞き分けのない姉貴分の同居人たちの顔が脳裏に浮かぶ。
 確か、凛々しいが赤面症の人と、やたら元気そうでとても元気そうな人だった。
 事実がバレたら大変気まずい思いをするに決まっている。あの表情豊かな彼女らの目が、白く見詰めてくる様を思うと血が冷える。

「…… いや、やっぱりこれは……」

「お願い聞いてくれなきゃ、あんたが買ったって言いふらす!」

「おい!?」

「じゃ、よろしくね。ありがと、あいしてる、おやすみなさーい」

「こら!?」

 おざなりな投げキッスを残し、姉貴分は嵐のように去っていった。

 凍りついたマリクがようやく動き出したのは、手から湧き出たイヤな汗が買い物リストを一通り滲ませてからだった(手練士の悲しさで、リストの内容はきっちり脳裏に焼き付いている)

冬の嵐(オラージュ)とはよく言ったもんだ…… ひょっとしてイェニテ姉一流のシャレなのか……」


 モノが売り切れていたことにして買い物を回避すれば良かったということに気付いたのは、手練士の変装技能を駆使してたっぷりとイヤな汗をかきつつ買い物を済ませ、(同居人の二人が戻っていないことを確認して) 寝こけている姉貴分の顔面にモノを投げつけてからだった。


 マリクの苦難の昼へ続く

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コメント

あははははははははw
いや、ちょ も これっ、、!

可愛すぎる!
マリクは大変かもだけど、
いいなあ。 大好きだ二人とも。
だいじょうぶ、テンペはあんまり気にしないかもだ!(其れも駄目じゃないかと。
お昼編も楽しみに!

見かけたあっくんが、空から爆笑かまそうともw
え?変装してるだろって?
オーラです、オーラw(どんな


ともあれ、昼編を楽しみにしておりますw

れするし

> 羽裏さん

キャラお借り? しましたよ。
微妙なネタで申し訳ない!
なんか突発的に降りてきたので手の赴くままに書いてしまったですよ。


> そなちさん
変装失敗しとるw
でもすごいうろたえてロクな変装してないとかありそうw
そちらもそのうち借りるかもしれませんよ!

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白銀

Author:白銀
TRPGと付き合ってはや十数年。
まさか結婚相手までTRPG者とは、TRPGで遊び始めた頃の白銀少年は知る由も無かった。

ルールブックの範疇で好き勝手に遊ぶので、ご一緒の際はよろしくどうぞ。

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