ダイスの言うとおり

ダイスにはロマンがあるよな

液体燃料ロケットHシリーズ(非遊戯会ネタ)

 今回はHシリーズと呼ばれている日本の液体燃料ロケットについて。
 H2Aといえば『打ち上げ失敗』 とか『打ち上げ延期』 とかいうイメージが根強いかと思うが、これはこういうときしかニュースにならないからだ。ガッデム。  ロケットは真空中を飛ぶため、ジェットエンジンのように周囲から燃焼のための酸素を取り入れることはできないので、燃料と酸化剤を自前で持っていく必要があるというのを前回述べた。
 固体燃料は燃料と酸化剤を混ぜてロケットに詰めるという方式だが、日本のHシリーズに用いられる液体燃料の場合は燃料に液体水素、酸化剤に液体酸素を使う。
 これを液酸-液水系ロケットと呼び、その燃焼反応は地上最強の化学反応のひとつだが、水素は燃料・体積比が非常に悪い(量の割に軽いので、きちんと量を揃えるとやたら体積がでかくなる) ため、世界的には液酸-ケロシン(灯油だ!) 系ロケットの方が主流。
 パワー自体は液酸-液水の方が強く、しかも水素と酸素は反応すると水になるため、後に残された噴煙は水蒸気。というか湯気。二酸化炭素も出さないし固体燃料のように毒ガスを吐いたりしないし電気も取れる。
 また、燃料が液体なので、燃料を燃焼室へ送り込むバルブをコントロールすればロケットの細かい制御ができる。これは常に全力で燃える固体燃料ではできないことだ。言い換えると、液体燃料ロケットが手綱の付いた乗用馬で、固体燃料ロケットはロデオ。言い過ぎか。じゃあ猪突。
 また、噴射パワーの調節ができるということはロケット自体の震動を抑え、積載している荷物へのダメージも最小に留めることができるような調節が可能だということだ。
 このように利点が多いため、世界の主流はこの液体燃料ロケットだ。NASAのスペースシャトルしかり、ロシアのソユーズしかり、ESAのアリアンしかり、日本のHシリーズしかり。
 また、ロケットの静止トランスファー軌道(GTO) 投入可能重量といって、衛星を静止軌道(地上3万6千km) へ打ち上げるための遷移軌道へ投入できる物資の量がロケットの性能を表す指標のひとつだが、日本のHシリーズの場合はだいたい4~6トンのものを軌道に投入できる(固体燃料のMロケットは2トン)。これはアリアンやソユーズもだいたい同じで、日本のHロケットは性能だけなら充分世界で勝負できる。
 もちろん、利点があるなら欠点もある。最大の欠点は、エンジンの開発が難しいという点だ。
 燃料である液体酸素の温度はマイナス190度(マイナス183度が沸点)。水素はマイナス253度(マイナス252.6度が沸点)。この極低温で普通の材料を使おうものなら、一発で凍結・粉砕の憂き目に遭う。極端な低温は分子の運動を停止させ、分子間結合を崩壊させるためだ(大雑把に言ってます)
 この極低温の燃料を入れるタンク、バルブ、タービンなどの開発は並々ではなく、各国とも液体燃料のエンジンはトップシークレットに指定している。
 また、液体燃料は取り扱いが難しい。Hロケットの打ち上げ時は周辺5kmが立ち入り禁止になるが、これは何かの拍子にロケットがブッ倒れたとき、搭載した燃料に火花でも散り、巨大な花火と化したときの安全対策で、打ち上げ寸前まで作業員が作業をしているとかそういうことはない(大中華4千年の炉蹴屠 打ち上げでは普通に作業してた。わりと十数年前まで)
 また、このような極低温の燃料を充填するには最新の注意が必要になる。具体的には、まず液体燃料をロケットのタンクに静かに入れる。ドバドバ景気良く入れるとそれで温度が上がってしまうので、大変静かに入れる。
 だがタンクの温度は常温なので、最初に投入される燃料は主にタンクを冷やすために消費される。タンクが燃料と同じ温度に冷えるまで、注いだ燃料はガンガン蒸発する。蒸発しても酸素と水素だから害はないが、もったいない。
 首尾よくタンクが冷えると、燃料はゆっくりと貯まりだす。だが、金属のタンクとはいえ、分子の大きさは酸素や水素よりも大きいので、タンク内で気化した燃料はタンクの壁の分子間を通過して、やっぱりガンガン逃げ出す。特に水素などこの世で最も小さい分子なので、これを留めておける物質は無い(なので、液体水素はロケットの打ち上げ予定が決まってから生産する。保管しておいてもドバドバ蒸発して減っていくからだ)
 このため、打ち上げ直前のロケットは、燃料タンクは半分くらいになっている。もちろん満タンに充填するのだが、打ち上げまでにそれくらい蒸発してしまうのだ。
 この燃料充填作業に数時間かかるため、液体燃料ロケットを打ち上げる場合は天気の読みが非常に重要になる。
 ロケットの射場には天気班がおり、天気予報とは別に自分たちで天気図を読んで、数時間先の天気を先読みしてロケットに燃料を充填する。もし打ち上げのコンディションが悪くなると、また数時間かけて燃料を抜く。ただでさえガンガン消えていく水素を一度入れて、また抜いて、なんてことをやると液体水素を作るためにかかった金はまさしく無駄になる。天気の予報は超重要だ。
 ロケットは重量と耐久性の限界ギリギリのバランスを付いて可能な限り軽く作られている。普通は耐荷重50kgの椅子に60kgの人間が座ってもまぁ大丈夫だが、ロケット用の場合は想定質量をギリギリ支える強度で軽量化するので、荷重オーバーすると壊れる、というようなバランスだ。これを地上最強の化学反応でブッ飛ばす。なので、風とか雨とか、余計な外部の力は可能な限り排除する必要がある。
 このため、天気が変わるとロケットの打ち上げは容易く延期になる。ロケットの打ち上げほど予定がアテにならないものはない。
 ここを理解していないと、ロケットの打ち上げ延期=技術不足とか税金の無駄遣いとか勘違いした記事を書く羽目になる。聞いているのか○日。キミタチの新聞だ。
 ちなみに日本の報道陣はことロケット打ち上げに関しては無知で知られており、日本のロケット関係者はNASAやESAのロケット打ち上げに研修に行くたびに恥ずかしい思いをするらしい。
 以下、H2Aが打ち上げ成功したときの山内理事長のインタビュー。

記者「今回の打ち上げもかなり延期されましたが、それについてはどうお考えですか」
山内理事長「許容範囲内です」
記者「次回はもうこのような遅れは許されないと思うんですが…」
山内理事長「いえ、許容範囲内です」

 理事長かっこよすぎ。アホと言い放たない忍耐力に感涙。まぁマスコミに少しでも実態を書いてもらわないといけないし。
 ちなみに日本の報道陣はNASAのシャトル打ち上げでも全く同じ質問をし、NASAの列席陣には「ハァ?」 という顔をされたそうだ。
 ロケットの打ち上げが遅れるのは当たり前。無理に飛ばして落ちたらウン十億と十数年かけて作った衛星が無駄になるのだ。
 また、ロケットが落ちるたびにニュースでは金額が報道されるが、こんなのが報道されるのは日本くらいのものである。
 H2Aがはじめて失敗したとき、内之浦では技術的なことを記者に質問されるのだろうと思い、技術者を会見場に派遣したのだが、訊かれた質問は「今回のロケットは幾らで、どれだけの損失額が出たのですか」 という恐るべき質問で、技術畑の担当者は答えに四苦八苦したらしい。今ではしっかり金額のメモを持って記者会見に臨むそうである。

 Hシリーズだけこのように騒がれるわけではないのだが、Hシリーズは商業ベースを狙っているだけに、こういった風当たりが強い。
 ロケットという代物はまだまだ開発段階で、一発打ち上げてそれが落ちるだけでも大変なデータの蓄積になる。そういう意味では「失敗」 はないのだ。

 このHシリーズで打ち上げてきた日本の衛星は気象衛星や太陽観測衛星、火星探査機「のぞみ」、おっかないところでは情報収集衛星など、そうそうたるものになる。改修が重ねられ、HロケットからH2へ。そしてH2Aへと変遷を重ね、現在はまた新型の計画があるが、例によって資金不足で遅れ、デビューは2008年になりそうだ。

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コメント


相変わらず面白い、、

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白銀

Author:白銀
TRPGと付き合ってはや十数年。
まさか結婚相手までTRPG者とは、TRPGで遊び始めた頃の白銀少年は知る由も無かった。

ルールブックの範疇で好き勝手に遊ぶので、ご一緒の際はよろしくどうぞ。

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