ダイスの言うとおり

ダイスにはロマンがあるよな

固体燃料ロケットM(非遊戯会ネタ)

 日本が世界に誇るロケットは二種類。
 固体燃料を用いるM(ミュー) ロケットと、液体燃料を用いるHロケットだ。
 どちらも世界最高水準のロケットで、打ち上げ回数が世界の一線級に比してかなり少ないのに高い評価を得ている。ジャパニーズメカテックスの誇りともいえる。  ロケットは真空中を飛ぶため、ジェットエンジンのように周囲から燃焼のための酸素を取り入れることはできない。
 そのため、燃料と酸化剤(燃焼とは要するに激しい酸化だ) を自前で持っていく必要がある。

 固体燃料ロケットとは、文字通り燃料が固体のロケットだ。
 合成ゴムのような燃料と酸化剤を混ぜてロケットに詰め、これに火を点けると、燃焼反応が進んでロケットは飛んでいく。
 打ち上げるときの印象から、スゲェ勢いで燃料が燃えているのだと思いがちだが、あまり急加速するとロケット自体が加速度に耐えられず、宇宙空間に抜ける前に空力破壊(空気抵抗に負けてブッ壊れること) してしまうので、固体燃料はどちらかというとブスブスといった感じでゆっくり燃える。燃えるために必要なエネルギーも多く、マッチやライターなどでは火がつかない

 このため、固体燃料は比較的扱いが簡単で、しかもロケットに詰めたままにして放っておき、火を点けたらすかさず飛んでいくという利点がある。しかも燃え出したら細かい調節はできないため、エンジンの構造はシンプル。燃焼の威力と高温に耐えられればそれでいい。
 ただし、燃え出したら細かい調節ができないというのは、もちろん欠点にもなりうる。固体燃料は常に燃えられる範囲でベストを尽くして燃える。しかし、ゆっくり燃えるとはいえ、発射Gは液体燃料ロケットより高く、しかも震動も大きいため、デリケートな科学衛星を打ち上げるのには不向きとされている。また、燃焼ガスは猛毒で、打ち上げた後の射場にはしばらく近づけない上に、なんらかの不具合で打ち上げに失敗し、しかも指令破壊(指揮所から指令を送り、ロケットに仕掛けられた爆薬を使ってロケットを破壊する) にも失敗して地上に落っこちたロケットは、撤去に化学班が出動する羽目になる。
 さらに固体ロケットはミサイルのノウハウに直結するため、日本がMロケットを打ち上げるたびにそりゃもー軍国化とかミサイル実験だとかうるせーうるせー。

 この細かい調整ができず、衛星に向いていない固体ロケットで、日本はバリバリの科学実験衛星を打ち上げてきた。
 特に小惑星イトカワにタッチアンドゴーした衛星ハヤブサの打ち上げ時には、「固体ロケットでそりゃ無理だ!」 コールが世界から殺到。そりゃそうだ。
 ハヤブサはスイングバイという技術を使ってイトカワを目指したが、このスイングバイ、極めて高い軌道精度が要求される。衛星本体にある程度の軌道変更能力があるとはいえ、細かい調整ができない固体ロケットを用いて高い精度が要求される軌道に衛星を乗せるのは至難。というか最前線の科学者が聞いたら笑うか呆れる。
 点字ブロックのスロープに1mm幅の線を引いて、そこからズレずにまっすぐ飛び出せば安全に着地できますよ、と言われてママチャリ(エンジン付き) を渡されるようなもんだ。
 そしてこの豪快で意欲的で多分に挑戦的で前人未到の試み(意訳:暴挙) は実行にうつされた。
 例によって搭載した燃料を逐次燃焼させながらカッ飛んでいくMロケット。所定の軌道へのハヤブサの投入がまず最初の関門だ。ちょうどそのとき日本は地球の反対側だったので、アメリカのJPL(ジェット推進研究所) がハヤブサを追ってくれることになっていた。
 JPLは「固体燃料ロケットを使って地球の引力を脱出させるミッションなんかできるわけがない」 と言っていたが、「まあ世界で最初の試みだからやってみてもよかろう」 などとタカをくくっており、どうせ予定どおりにはロケットは来ないだろうから、とJPLの追跡チームはゆったり構えていた。らしい。
 ところが視野に入ってきたロケットは予定と1秒しかずれていなかった。
 以下、びっくりして内之浦射場に電話をかけてきたJPLと内之浦の会話。

JPL「おい、1秒しか誤差がなかったぞ!」
内之浦「そんなもんだわ」
JPL「そんなもんか…」

 以上、野尻抱介氏の的川泰宣教授へのインタビューより。

 こうしてハヤブサの軌道投入はとりあえず成功。ミッションに従い、月の向こうをくるりと回ってきた(このとき、日本史上初の月面裏側の写真を撮影) ハヤブサが、いよいよ地球を使ったスイングバイに入る。
 このとき要求された精度は「甲子園球場のホームベースからバックスクリーン上の0.1mm大の的を打ち抜くよりも難しい」 という代物。当然ある程度のズレはあるはずで、ズレが大きいほどその後の修正は大変になる。
 そしてスイングバイに入ったハヤブサの最接近高度は、地上から3700km。これは予定から1kmしか誤差がなかった(的川先生の著書『轟きは夢を乗せて』 より)
 これがどんなすごい数字なのかと具体例が出せないのがもどかしい。宇宙における誤差1kmなど無いも同然。1kmなんて10分の1秒以下の時間で駆け抜ける距離だ。
 何が言いたいのかというと、固体燃料ロケットでそこまでの精度が出せる日本の技術力と運用、というところに落ち着くわけだけれども。


 これが日本が誇る固体燃料ロケットの実情で、他国の宇宙機関とは異なり、二種類のエンジンのノウハウを持っているというのが大きな強み。
 話が長くなったので液体燃料ロケットについてはまた次回。

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コメント


いやあ、 面白い話です。(笑。
純粋に読んでしまいましたよ!

なんてことだ

宇宙開発とか。
人工衛星とか。
そういうものの持って帰ってくる成果の方は興味はあっても技術そのものには全く興味なかったのに!
面白くてついつい読みふけってしまいますよ。

次回を座して待つ。

毎回、、 面白いなあ。 ちょくちょく読みに寄らせて頂いています。

全然専門知識なくても、例えとかで、面白くしてるのが、 凄い。

また来ます!!w ノシ

れするの

> ユメん

非遊戯会ネタだけど読んでくれてありがとうー
遊戯会向けのネタに詰まってるだけだなんて秘密さ。


> 雪だるまさん

技術があって成果があるわけで、両方に興味があるのが一番楽しめるかもですねw
なぜなんのためにその成果があるのか、を知ると視野が拓ける(気分的に)


> 羽裏さん

読んで下さってありがとうございます。
例えで読みやすくなっていると言われると、足りない脳みそを捻った甲斐があるって気持ちになって嬉しいですよ!
で、何の例えを出したっけ… ってエンジン付きママチャリ… ofz

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白銀

Author:白銀
TRPGと付き合ってはや十数年。
まさか結婚相手までTRPG者とは、TRPGで遊び始めた頃の白銀少年は知る由も無かった。

ルールブックの範疇で好き勝手に遊ぶので、ご一緒の際はよろしくどうぞ。

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